「兄さん、忘れ物ですよ」
僕の妹は同じ学園に通っているのだが、もちろん同級生というわけではなく、一つ下の一年生である。
「もう、忘れちゃ駄目ですよ? お母さんの作ってくれた大事なお弁当、粗末に扱ってはいけません」
名前は、御法光という。
 誰にも心配されることのない、とても仲の良い兄妹をさせてもらっている。
 少なくとも、忘れ物を届けに来てくれる程度には、良好な関係……なのだが。
 差し出されたお弁当を目の前にして、空腹のお腹が早く胃袋に入れやがれと暴れるのを抑えながら、
「……いや、その、うーん、ありがたいんだけどさ」
「……? どうしました、兄さん?」
 困り果てた僕は、たまらず時計を指差して
「放課後に持ってきてもらっても、何の意味もないような気がする……」
時計は既に夕暮れ時を示しているわけで。
「あ、そういえばそうでしたね」
わざとらしく、口元を手で隠しながら
「ごめんなさい、忘れてしました」